じき|オーガニック葡萄の栽培とワイン醸造

2026/09/15 22:12

醸造所を建てて、初めてのvtの今だからできること、今しかできないこと。
それをやりたくて日々どうやるか策を考えていました。

それはこの蔵の蔵付酵母についてどう考えるか。
将来にわたってここで野生酵母と共にワインを醸造していくときに相棒となる菌にどうやって棲んでもらおうかという事でした。

色々文献を読んだり、セミナーで聞いたりもしましたが、病果のついていない綺麗な葡萄房には基本的にサッカロミセス属が付着していることは多くありません(ほぼ居ないといった文献もあったと思います)
温暖湿潤な日本であってもそれは同じです。罹病したり物理的に傷ついて、果汁が暴露していない限り主発酵を司るサッカロミセス属は葡萄に付いていないのです。
もちろん日本は、乾燥している地域よりも空気中の菌類は多くいることが考えられ、果汁が出た場合の菌類の付着度合いは高いと思います。
じゃあ、ワインを野生酵母で発酵させるとき重要となる酵母菌はどこから来るのか?
それは蔵付酵母であることが多いというのが実情です。
では、蔵付酵母はどこから来たのか?それは収穫してきた葡萄房から入ってくるor極微量空気中に漂っている酵母菌という事なんだと思います。

綺麗な房には基本的に菌は付いていないけど、きっかけは房?

当然、入庫する全ての葡萄を全くの果皮の破れが無く、綺麗な状態にすることは不可能です。
極稀に汚れた房があれば、そこに付着していた菌が増殖していって蔵付酵母になる可能性があるでしょう。
或いは、蔵で搾りを行えばジュースの糖分に空気中にたまたま存在した酵母菌が落下して増殖し、蔵付酵母へと変わっていくと思います。
でもこのようなケースだと、極少量の酵母菌が何百、何千Lのジュースをワインに変えるとなると増殖するまでには相応の時間がかかります(加えて菌類には得手不得手の発酵があると思います)
新規の蔵で野生酵母でワイン造りを行うと発酵が上手くいかないことが多い原因の一つはここだと思っています。

そして、この「偶然やってきた」酵母菌がその年のワインを醸すというシチュエーションは真っ新な蔵を始める1シーズン目のvtのみだと考えています。
2シーズン目からは蔵付酵母が大活躍します(房に付着して持ち込まれる菌が出てくることも当然ありますが、ほぼ蔵付の菌が主発酵の要因だと思います)
1シーズン目に発酵が始まらず苦労していた蔵も2年目から順調に発酵がスタートするのは1年目のワイン醸造で育成された酵母菌たちが蔵に住みつき、プレス機やタンク、樽などに付着している為という認識です。彼らはサニテーションを掻い潜り、環境が悪化する仕込後の蔵でも胞子形成を行って翌シーズンまで耐え忍んだ酵母菌です。特にプレス機に付着する酵母菌は醸造機器の中では一番多いようで、白ワインであれば最初に通過するプレス機で蔵付酵母がしっかりとジュースに溶け込んでくれ、その後の発酵に寄与していくのだと考えています。
(※完璧に近いサニテーションはあるのかもしれませんが、強アルカリを使い続ければ薬剤耐性菌は出てきますし、細菌類では芽胞形成して強アルカリに耐えるものもいます。小規模の蔵では完璧なサニテーションは難しく、菌類の絶対量を減らすことは可能と思いますが、根絶は不可能という認識です。)

そこで今回私が考えたのは葡萄畑に棲みついている酵母菌を蔵付酵母にしたいという事でした(房付きで持ち込まれる菌ではなく、畑の中にいる酵母菌)。
我が家に福の神を引き寄せるような、そんなイメージです。
これは以前、京都のもやし屋さんの特集を見る機会があり、種麹のスタートは炊いたご飯を茶碗に入れて木灰を振り、庭先に出して麹菌を付着させるのが始まりだというのが記憶にあったからです。白いご飯が徐々に緑色に変化していく様は神秘的でもあり、空気中の麹菌がご飯を変化させていく過程は見ていてワクワクするものでした。彼らが日本酒や味噌、醤油といった日本全国の発酵食品の礎を築いているのだと考えるととても頼もしく、でも最初はこんなにも儚い存在なのだという事に驚いたのです(もやし屋は全国に10軒くらいしかありません)

昔から脈々と続けられてきたコウジカビとの共存過程が、じきの葡萄畑や森に棲んでいる酵母菌を蔵に招き入れたいと考えたキッカケでした。
動物や虫が棲みつき、風が通り抜け、気候環境も整っている、「じき」の葡萄を育んでくれたこの土地に棲みついている酵母菌を蔵にお招きしたい、そんな思いがありました。



当然、葡萄のマストを置いておけば、落下菌が侵入して、菌が繁殖しますがそこには真菌も細菌も色々存在している状況です。
ですが葡萄果汁が秀でているのは、ある程度の高糖度でありながらPhの低さと酸の高さにあります。
この環境で生育できる真菌は限られます。
更にカビ麹を招き入れる時に使用するご飯に振りかける木灰のような役割のものを考えて実践する予定です。
あとはしっかりとPhと酸を測定して使用する葡萄品種を選んでいければと思います(※熟しきっていない少し青いくらいのでbrix20度未満でも良いかも?)
これで集めた菌類とマストでピエドキューブを造り、発酵のスターターとして利用していければと思っています。
この菌がワイン醸造をする上で良い働きをしてくれるかどうかは分かりませんが、葡萄果汁で活発に動き続けられる酵母菌であれば問題ないだろうという認識です。
後はカビ毒についてですが、ある程度の低気温であればアフラトキシンを産生するような酵母菌の活動も無いようなので夜間に菌採取を行おうと思います。

この子たちが上手く蔵に棲みついてくれれば…。
もちろん酵母菌同士は交雑してハイブリット化していくので、2年目以降は蔵付酵母も形を変化させ、よりこの土地の葡萄を醸す能力に長けた子が現れてくると思っています。
彼らが今後のじきのワインの良き相棒となってくれることを祈るのみです。